室礼には「お道具」は欠かせません。人が住むのに家がないのと同じく、食事をするのに器がないのごとく。お道具が器なら、その器の上にはその時の旬の果物や野菜(ことば)を盛ります。但し、単に飾りではないのが室礼の妙味です。
例として、4月の室礼は
4月3日〜入学祝い、入社祝いの始まりを祝う室礼
新スタートを切る人を祝う室礼には、床の間があるなら
①掛け軸に新成人を励ます禅語や句、祝いの言葉や始まりの言葉を掛けます。
②床の間には向かって左に柳やレンギョウの芽が出るものを活けます。
③中央にお香を焚きます。(香炉は 鋳物)
これを「三具足」(みつぐそく)といい、床の間の基本形となります。
掛け軸の言葉は、その季節や願いを神に託します。花は季節の芽の出る枝物で成長する様を表し、香炉の煙は神に新成人を守って欲しい思いを託します。三具足は儀礼文化として伝承された形です。いわばお道具の三点セットです。
そこで、現在の室礼はもっと自由自在に考えます。お床の間がなくても大丈夫です。下駄箱の上でも、タンスの上でも室礼は自在に展開できます。三具足の基本を踏まえ、床の間なら黒の長板を使いますが、お客様用の漆盆(赤または黒)=長方形のお盆で代用します。
左に春(四季)の花、水仙(白)を細口の花器に三本活け、お香は中央に置き、小さな「香立て」に一本を立てます。右端に真っ白な身近にある和紙の束(白い和紙は始まりを表し)を半分に折り、その上に祝う人の職業に関わる物(お道具)をおきます。美容師なら「ハサミ」、車に関係するなら、小さなミニカー。営業職なら数字を上げる仕事なので半紙の上に「数」の入ったカードや電卓を置きます。つまり、「言葉の意味」を「お道具」に託し儀礼の空間を作るのです。日本の精神文化はこうして形を変えながら伝承されています。
4月8日は「花祭り」の室礼。
4月1日から当日もしくは月末まで「花祭り」お釈迦さまの誕生を祝い、我が子がお釈迦さまのように賢く、健やかに育って欲しい願いを春の花や仏の座(仏様の台座に似ている)に託します。お釈迦さまは花台の下の段に座し、その周りに仏の座を置きます。上の段に春の花を活け(短めに蔓物を入れ垂らす)これで「花見堂」の室礼とします。
これはお釈迦さまが誕生したルンビニの園で誕生した時、天の神々が祝福の花びらを散らし、八大竜王は甘露の雨を降らせたという故事を再現したのが花祭りだからです。
コロナウィルスが世界を席巻しています。こういう時の室礼は、玄関の下駄箱の上に、升に入れた小豆を置き「魔除け」にします。花は木瓜(ぼけ)の花にして「トゲトゲ」でウィルスを撃退しましょう!その物の(形)、名称や意味が「魔除けの願い」となります。
このように、室礼で使うお道具は、家にある物で十分間に合います。まずはその意味を物に託し、願いや思いを空間にしつらえましょう。ご実家やご先祖さまの残された古い花器、または仏像や置物が再び家の中で使われることで、喜ばれたご先祖さまが「コロナ」から守ってくれることでしょう。神や仏に(ご先祖さま)祈る思いが儀礼(室礼)の根底にあるのです。
「言葉の力」、「祈りの力」を信じ、この未だ嘗てない激動の時を乗り切りましょう!
「花祭りの室礼」の「仏の座」は春になるとりんごの木の下に一面に咲く雑草です。春の七草で知られていますが、見たことのないない方も多いのでは?以前からやってみたかった室礼です。雑草としてあまり使われない脇役を今回は名前通り、釈迦如来の台座(主役)に見立てます。
台座を乗せるのは、アジアの古いカヌー。それを病院のベッドに見立てます。そのカヌーの上にお釈迦さまを立て、朝、りんご畑から抜いた「仏の座」を脇に添えます。今苦しんでいる人々の救済を願い、左に活けた花の水仙を健康な人に見立てて、木瓜の花の棘で、コロナから守ってくださいと願いを掛けます。今日を限りの「仏の座」。踏まれても根っこは強い雑草を私たち人間に重ねてみました。
ふだんなら、お軸は季節を先取りした「牡丹にシジュウカラ」で良いのですが、今回は新型コロナの終息を願い。京都三十三間堂の国宝 「千体千手観音立像」の水墨画(山上紘山 作画)を背景に使ってみました。
【室礼(しつらい)とは、3つの調和で成り立つ】
1)いつ?季節(二十四節季)
2)どこで?(家、仕事場)
3)何を誰のために祈るか?(自分の家族、友人、お客様)
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